ホライゾンについて

奄美の島々には、
水平線の彼方に神の住む豊穣の理想郷があるという
ネリヤカナヤ思想があります。
そこからやってくるユリムン(漂着物)を人々は
大切な恵みとして迎えてきたことでしょう。

1995年、私たちは「奄美群島の情報誌Horizon」
を創刊することとなりました。

Horizon(ホライゾン)は、
地平線あるいは水平線という意味の英語ですが、
水平線という意味で使用しました。
海に抱かれる南島のネリヤカナヤの意味を込めたかったからでした。

奄美群島は有人8島の南の小さな島々
(奄美大島・加計呂麻島・請島・与路島・喜界島
・徳之島・沖永良部島・与論島)ですが、
特異な歴史をもち自然や文化はそれぞれ個性的で、
知れば知るほど興味深い島々です。
当時、これらの情報がほとんど島外に知られていなかったため、
島おこしの思いをこめて、
奄美群島の様々な情報を奄美から発信しようと考えたのでした。

こうして情報誌Horizonは
奄美群島観光連盟(のちに(一社)奄美群島観光物産協会)と
広域事務組合の協賛を得て、
A4版24ページカラーで年2回の発行を続けてきました。
夫の浜田太が主に写真撮影、私が企画と取材、編集を担当してきました。

「Horizon」は、薄い冊子ですが、
写真を大きく扱い、記事は一口サイズでわかりやすい内容にして、
奄美を知らない人々にも興味をもってもらえるように、
しかし本質をしっかりおさえた奄美入門書のようなものにしたいと思いました。
それぞれの分野で奄美の研究をされている方々に
執筆などのご協力をいただきながら、
悪戦苦闘しつつ、20年間発行してきました。
2014年に終刊となりましたが、
現在は電子書籍となって奄美を紹介し続けています。

こうしたなか、
今回、鹿児島大学国際島嶼教育研究センターの
招聘事業で来島されたニュージーランドの
メディア論の研究者エヴァンゲリア・パポサキ博士により、
Horizonで発信してきた情報を項目別にまとめて、
英訳も入れた国際的なWEBサイトづくりのアドバイスをいただき、
1年半をかけてようやく第一段階での完成にこぎつけました。
おりしも、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が
世界自然遺産に登録が決定され、
世界中の人々が奄美に熱い視線を向け始めたこの時期に、
ホームページを完成させることができたのはとても嬉しいことです。

ご協力をしていただいた関係各氏に
深く感謝申し上げますとともに、
奄美の自然と文化が広く世界に知っていただくことができますよう、
心より願っております。
今後もこのWEBサイトは、進化しつづけていきます。
まだまだ知られていない多くの奄美の情報を
発信していく予定ですので、どうぞ、ご期待ください。

奄美群島の情報誌Horizon編集長 浜田百合子

Horizon ホライゾン:奄美の“環境文化的雑誌”

エヴァンゲリア・パポサキ博士
国際小島諸文化会議(SICRI)の招集者

情報誌ホライゾンとその編集者との初めての出会いは、私が鹿児島大学国際島嶼教育研究センターの客員研究員として2017年に奄美大島を初めて訪問したときのことでした。私は、鹿児島大学での私の受け入れ教員の桑原季雄教授と共同で、奄美諸島におけるコミュニケーション環境の全体像を探るための民族誌的予備調査を行いました。その際、島の情報伝達にメディアが果たす役割や島の重要なコミュニケーションネットワークの解明に取り組み、特に、島独特のコミュニケーションと情報伝達の代表的な事例を見つけたいと思っていました。

そこで、島のコミュニケーションネットワークに関係している奄美の人々に聞き取り調査を行なう中で、私は桑原教授に浜田太・百合子夫妻を紹介され、お話を聞く中で、彼らの奄美に対する情熱と島社会への献身的な奉仕に、何か深いものを感じました。そして彼らの情熱的な献身の現れの一つが奄美を代表する唯一の情報誌ホライゾンでした。それは数々の受賞歴があり、奄美諸島の文化や自然について私が今までどのオンラインソースにも目にしたことのない情報誌でした。

奄美を構成する8つの島々は、それぞれが特徴的な方言と文化的なアイデンティティを有する独特のミクロコスモス(小宇宙)です。情報誌ホライゾンは観光客に狙いを定めて、島の文化や自然への窓口となっていました。もちろん、ホライゾンは島の人々が自分たちの島を自らの目を通して見、また、よその島々について学ぶことも可能にしました。編集者の浜田百合子さんは、島の人々が誇りに思う何か質の高いものを島の中で創りたかったと言います。こうして、奄美の歴史や伝統文化的なものばかりでなく、現代のクリエイティブな表現や出来事も、夫で数々の受賞歴のある写真家浜田太さんのオリジナルな写真によって情報誌ホライゾンの中に取り上げられていきました。

私にとって際立って見えるのは、自然と文化の否定しがたいつながりです。島の自然環境は島の文化の延長であり、その逆もしかりです。私たちは浜田太さんと会って、島の自然環境に対する彼の情熱をすぐさま感じ取りました。彼は自らを奄美の写真家、エコロジスト、クロウサギの専門家と呼び、強い責任感とともにこのアイデンティティを携えていて、情報誌ホライゾンはそのひとつの成果でもありました。というのも、浜田夫妻は過疎化や高齢化、本土の大衆文化の影響によって浸食の危険にさらされた島の自然と文化の環境的世界を記録することの重要性を強く認識していたからです。私たちはこの情報誌が主に外部の読者に狙いを定めていたことは、島の表現のバランスを内部から取る努力とみることができるという意味で、地元の出版物の良例だと認識していました。情報誌ホライゾンは、元々は観光客に対して島の文化や自然に対する窓口として生まれましたが、それを自分たちのアイデンティティの肯定と見た島の人々によっても読まれました。

ホライゾンは1995年に創刊され、2014年に休刊となりましたが、バックナンバーは今でもネットや観光スポット、空港などで利用できます。簡単にアクセスできるフォーマットとコンテンツを有する価値あるアーカイブです。その情報誌がもはや出版されないということは悲しいことです。そのコンテンツは、観光客にとっての情報源であるばかりでなく、島の文化と自然に関するアクセス可能なアーカイブとしても、妥当なものであり続けるでしょう。当時、島に関する英語のオンライン情報が皆無であったことや奄美大島がユネスコによって国際的に注目される世界自然遺産として承認されたことなどから、私はバックナンバーのコンテンツをセレクトして英訳し、アップデートし、オンラインで出版することを提案しました。こうして、オンライン情報誌ホライゾンというアイデアが誕生したのです。私は奄美諸島と情報誌ホライゾンが国際的な聴衆の注目を集めるのに一役買うことを誇りに思います。これは、奄美諸島の独特で豊かな環境文化的景観が海外によりよく知られる一助となるでしょう。

メディアと島を研究する者として、私は島の表象の重要性ばかりでなく、誰が誰によって提示されるかというそのダイナミクスも理解しています。奄美諸島の語り部と文化後援者については豊かなリストがあります。浜田夫妻は長年にわたって島のコミュニケーション環境の奉仕者として、また、島のストーリーをその島の内側から生み出す後援者としてあり続けてきました。ホライゾンのコンテンツを英語で紹介するオンラインプラットフォームの創設は、島の活動家たちが彼らのストーリーを自身の声で広く共有することに貢献します。その著述活動を維持することで島々の声が強まることでしょう。