祖先から伝わる奄美大島の郷土料理は、磯の香りや土の香りがする野趣あふれるものが多い。
多様な動植物が生息し、固有種も多い奄美の島々は、かつては「道の島」といわれ南の琉球文化や北の大和文化が流入したため、食文化にも歴史や風土に根ざしたものがよく残されている。また、長寿世界一が二人も輩出されるなど奄美の島々は、健康長寿の島としても注目されている。奄美の代表的な郷土料理を紹介しよう。
豚肉料理
昭和40年代(1965~1974年)までの奄美では、貴重なタンパク源として各家庭で全身が黒い島豚が飼われていた。年末にこれを屠り年越し料理「豚骨野菜」にしたり、塩や味噌に漬けて保存食にするなど、すべての部位を料理や生活に活用した。
豚足の甘辛煮
豚足はきれいに洗い、茹でこぼしを3回ほどして下茹でする。醤油、みりん、黒糖焼酎、生姜などを入れて煮込むと、とろとろの甘辛煮のできあがり。
鶏飯
美しい彩りと滋味深い味わいの鶏飯は、奄美を代表する郷土料理だ。奄美が薩摩藩の直轄地だった江戸時代に、奄美北部(笠利)で役人をもてなす料理として作り出されたといわれている。鶏一羽分から黄金色のスープをつくり、ささみをほぐし、熱いご飯の上に錦糸卵、椎茸やパパイヤ、小ネギを並べ、あつあつのスープをかけていただく。
油(あぶら)ぞうめん
明治期(1868〜1912年)に奄美に普及した素麺の簡単料理で、農繁期などに重宝された。固めに茹でて、キビナゴで取った出しをからめ、ニラや野菜のほか肉類を入れるなどいろいろアレンジされている。
フルイキ
冬場の野菜であるフル(葉ニンニク)。ニンニクの球ができる前の若い葉茎なので柔らかく香りもよい。これを豚の三枚肉や塩豚と厚揚げとともに炒める。味付けは島ザラメや醤油を少々入れる。
赤ウルメの唐揚げ
赤ウルメはサンゴ礁域に生息する奄美で最もポピュラーな魚。身は白くやわらかく、から揚げ、塩焼き、魚汁、魚味噌などにしていただく。
水イカの墨汁
透き通った姿が美しい水イカ(アオリイカ)は、肉質がやわらかく甘みがある。刺身はイカのなかではもっとも美味といわれる。また墨(マダ)を使ったマダ汁はコクがあり、甘くまろやか。のぼせや血圧を下げ、血の巡りをよくするといわれる。
お好みで色添えに、春菊やヨモギの葉をのせても美味。
伊勢海老
奄美では夜間の素潜り漁で、かのこイセエビやシマイセエビなどがとれる。どちらも美しい形と模様で田中一村の絵画にも描かれている。奄美では味噌汁仕立てがイセエビの食べ方の王道で、エビの旨みが一番生きる食べ方だ。冬瓜や大根、豆腐、生姜などを入れても美味。刺身はプリプリした甘みが味わえる。
写真・解説/ホライゾン編集室