奄美大島の川
リュウキュウアユの一生
島の生き証人 リュウキュウアユ
リュウキュウアユPlecoglossus altivelis ryukyuensisは琉球列島固有の亜種であり、沖縄島では1970年代に絶滅したため、自然個体群は奄美大島にのみ生息する。遺伝的な手法を用いた研究により、東アジアから日本列島に生息するアユPlecoglossus altivelis altivelisとは、100万年レベルで交流がなかったと考えられており、アマミノクロウサギPentalagus furnessiやルリカケスGarrulus lidthi等と同じく、島の地史を物語る生き証人である。
リュウキュウアユは川と海を行き来する両側回遊型の生活史を持っている。春に海から川へ遡上し、夏の間は主に川の中流域で生活する。川底の石の表面に付着した藻類を餌とするが、餌場をめぐってナワバリを形成し、他の個体を激しく排除するものもいる。繁殖期は晩秋から冬で、婚姻色の現れた親魚が、塩分や潮汐の影響を受けない下流部の早瀬に多数集まる。産卵は日没前後に行われることが多く、1個体の雌を2個体の雄が両側から挟み込み、川底の砂利に体を沈める数秒間のうちに産卵・放精する。産卵後には多くの親魚が約1年という短い一生を終えるが、越年して生き延びるものも少数ながら存在する。砂利に産み付けられた卵は10日ほどで孵化し、仔魚は直ちに海へと流される。20℃を超える暖かい海水は、稚魚にとって体液の恒常性を維持するうえで致命的であるため、河口に隣接した水温と塩分が低い干潟や砂浜の周辺で冬の間を過ごす。
奄美大島では「ヤジ」と呼ばれ古くは食用にされていたが、現在は鹿児島県の条例により捕獲が禁じられている。最近では生息域の小中学校で、環境教育の素材として活用されている。
イラスト・写真/米沢俊彦