唄の島
島唄の楽器(三味線・太鼓)指笛
奄美の太鼓
奄美の祭りや行事になくてはならない楽器が太鼓である。奄美ではチヂンと呼ぶが、徳之島ではテークという。
旧暦八月、奄美各地では五穀豊穣を願うために踊られる八月踊りで、踊りと唄とチヂンが三者一体となる。踊りの輪の中の数人がチヂンを手に持ち、バチで打ちながら唄い踊る。古くは1850~1855年の島の暮らしを絵入りで記録した史料『南島雑話』に、チヂンを手に人々が輪になって踊る様子が描かれている。
職人によって造られる歯車のような形状のチヂン。胴になるクスかセンダンなどの軽い木の輪の上下に、馬か山羊、牛の毛が付いたままの皮が張られ野趣に富む。側面に紐を掛けクサビ(木片)を差し込み、撥で叩いて音を出す。
このクサビ締め太鼓は枠のない締め太鼓で、締めひもの間にクサビを入れてひもを締め、皮を強く張る。これは韓国の済州島や中国とタイのヤオ族、タイの赤族、インドなどでも使われているという。
チヂンは、かつては、女性が中心となる神事に多く用いられた。その名残か、奄美大島北部の集落では、今でもチヂンの打ち手は女性だけに限られる。八月踊りの歌により叩き方が異なるが、その音を聞くと、血が騒ぐという人は多い。
徳之島の太鼓(テーク)は、奄美のものより一回り大きく、牛の皮を張るため重量感がある太い音がでる。井之川の夏目踊りでは、男性がテークを持ち、エネルギッシュな低音が祭りを盛り上げる。また、徳之島では、闘牛の勝敗が決するたびに応援団がテークを鳴り響かせ、「ワイドワイド」の掛け声とともに手舞い足舞いする姿が印象的である。
奄美のサンシン(三味線)
奄美の島唄の伴奏楽器として欠かせない三味線は、サムセン、サンシル、サンシンとも呼ばれ、魔除けや福を招く力として床の間に飾り、家宝として大切に受け継がれてきた。サンシンは14、5世紀に中国から琉球、そして奄美に伝わったとされる。沖縄と奄美の三味線は、楽器本体は似ているが、音域、バチ奏法が異なるので音色が違う。奄美の三味線は沖縄のものに比べ、細い弦で高音が出、竹のバチで上下をつま弾く返しバチ奏法である。沖縄や沖永良部島、与論島の三味線は、水牛の角のバチで上から下へゆったりつま弾く。
皮は、かつては和紙や大島紬の生地に芭蕉の汁を塗ったり、ニシキヘビの皮が使われたりした(それで蛇味線=ジャミセンとも呼ばれる)が、現在は材料や音が安定する合成皮革が多い。また音を決めるポイントである棹には、黒檀、紫檀などが使われるが、材が良質であると漆を塗らなくても磨くことで手触りの良いものが出来るという。
かつては男性だけが弾くものだったが、現代では女性もサンシンを弾きながら島唄を歌うのが、珍しくなくなった。
島唄の伴奏は、唄に三味線が合わせるとうまくいくという。島唄の歌詞には三味線への愛着が歌われたものもあり、昔の人々の暮らしぶりを知ることができる。
奄美の指笛(ハト)
指笛(ハト)は、奄美の八月踊りや六調、スポーツの応援などを盛り上げるのには欠かせない。その鳴らし方には、かなりの技巧がいる。名人によると、指笛はリズムが必要で、タイミングがあるという。コツは舌の先を1センチぐらい下顎のほうに曲げて、口に入れた指と口の中で互いに押し合う感じにする。指や唇が乾いたり、濡らしすぎたりしても鳴らない。腹筋に力を入れて指を固定し、少しずつ長く息を出すようにすると上手くいくという。
小指を使うハトは昔ながらのもので、かなりの熟練がいるそうである。指笛と奄美の人々の暮らしとの繋がりは古い。ハトの音色は、今でも集落行事の様々な場面を盛り上げてくれる名脇役である。
写真・解説/ホライゾン編集室