物語の島

島々の妖怪

ケンムン(木の精、妖精、物の怪)

ケンムンは奄美独特の妖怪だ。身長は小さい子供くらいで体は痩せていて、全身が赤い毛におおわれ、手足が異様に長い。座ると膝頭が頭の上にくるほど足のすねが長い。眼はくるくると光り、青光りする鼻汁を垂らしながら右や左に顔を動かしているという。耳たぶは長く、河童に似ているが甲羅はない。雄ヤギの匂いに似ていて非常に臭い。主に、アコウやガジュマルの木の上にいるといわれ、村人たちに悪戯を働いたり、また協力をしたりと、生活に大きな関わりをもっていた。

森羅万象に神の存在を感じる奄美では、ケンムンは人間に自然との関わりを教える存在であるという研究者もいる。人間社会と自然との境界域にしばしば現れる境界域の番人なのかもしれない。

かつてはケンムンに会ったという人々が多くいたが、現在はあまり聞かない。ただ、家々では魔除けとしてスイジガイなどの大きな突起のある貝殻を門柱に置いたり、軒下に置いたりしている。

幕末の奄美の自然や文化を描いた『南島雑話』(奄美市立奄美博物館)に出てくるケンムンの類。時々、島人を迷わし、山野に引き込むことがある。また、よく相撲をとるが、人に害を加えることはなく、きこりの木を背負って加勢するとも書かれている。

奄美の民俗学者、恵原義盛(1905 – 1988)が描いたケンムンの絵。恵原氏は収集したケンムン話を科学的に分析して新聞に発表。以来、「ケンムン博士」と呼ばれた。著書に『奄美のケンモン』ほか。

火あたりするケンムン(恵原義盛作)

ケンムンは、相撲が大好きでよく仕掛けてくる。

タコが嫌い/タコとシャコガイを恐れ、金物にふれると無力になるといわれる。

ケンムンを見た人の証言集

奄美大島

ケンムンのしぐさを真似る証言者/奄美大島

小学校5年生のとき、近所の兄さんと塩炊き小屋で丸太の上に座っていると、臭い匂いがするので、横を見ると、いつの間にか茶褐色の硬い毛で全身おおわれた身長70センチくらいの小さなモノが、膝を耳くらいまで立て頭を両手で覆っていた。口はちょっと尖っているようだったが、ヨダレが長く下に垂れていて、青臭いような非常に臭い匂いだった。当時はケンムンに出会った話はよく聞いたが、パルプのために木を切り始めてから全く聞かなくなった。

喜界島

河童に似ているというガーロー

森がない喜界島では、海やため池などにガーロー、あるいはガナオー、ニィーブリーなどと呼ばれる妖怪がいると聞く。赤い顔をしていて、人間の尻を抜くとか両手が連なって左右に動くなど、特徴が本土のカッパによく似ているらしい。

徳之島

証言をもとに描いたケンムン

徳之島でケンムンを知っているという人の証言。「私にはケンムンが見える。神様がいるところとケンムンのいるところは一緒。ケンムンは人間の心がわかる神様で、悪いことをしようとしたら叩いて良い方へ導く神様だ。心根のいい人には悪いことが起こりそうになっても、守ってくれる。ケンムンは、人間の子供のようだったり、顔が人間で胴体が蛇の姿をしているものなど、面白いほど様々な顔や形がある。

1969年、千間海岸でケンムンを見たという人の話。「焚き火を囲んで、飛んだり走り回ったりしていた。身長は大小あって130センチくらい。痩せているものがほとんどだが、太っているのもいた。足は棒状にまっすぐ伸びていた。

沖永良部島

のしかかるヒーヌムン

沖永良部島では、ケンムンによく似た木の精のことをヒーヌムンという。その証言。「小学校5年生くらいの頃、草刈りを終えてうとうとしていると、ヒーヌムンが現れて「相撲取ろう」としつこく言ってきた。わたしにいつも投げ飛ばされていたが愛嬌のある顔で、カッパに似ているが頭に皿はなく、猿に似て全身ヒゲもじゃだった。寝ている人に上から乗って金縛りにするヒーヌムンの話もよく聞いた。

与論島

一本足で海を歩くイシャトウ

川も森もない与論島では、海に一本足のイシャトウ(別名ハタパキマンジャイ/片足野郎という悪口の意味)という妖怪がいて、片足で歩くという。身長は小さく、笠を被っているともいわれ、魚の目玉を食べて悪戯をするといわれる。

イラスト /あいきじゅん
取材・解説/ホライゾン編集室

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