奄美大島の森/植物
奄美の森の恵みに感謝(エッセイ)
森が多い奄美大島や徳之島の昔の家は、イジュ、モッコク、イタジイ、リュウキュウマツなどの島の木々で造られていた。奄美大島では森の成熟木が、鐵道の枕木やパルプ材として島の経済を支えた時期もあった。家庭用の燃料は、1960年代までは島の森から得られる薪や炭だった。
森は人間や鳥や他の動物たちの食べ物である木の実や、若芽、キノコなども生産し、人々の暮らしに役立ってきた。食も住も森に頼っていた昔の人々は、森は神聖な場として、尊敬と畏敬の念をもって接してきた。森に行く時は必ず塩を持参し、入り口で軽くまき、森の神様に「山に入ります」と断わりと身の安全を念じた。また、木を切る時には「切らせてください」と口上を述べて森の主神に断わり、特に大木を切る時には周りに塩をまいて神に祈ってから、斧をいれていたものだ。
また、奄美大島と徳之島の森には毒蛇ハブが君臨し、人間を含む侵入者を寄せ付けない番人のような役割を果たしてきた。人々はハブを畏れながらも神として崇めてきたのである。
このように昔の人が森を利用するときには、尊敬の念と緊張感があった。生活に必要な木材や木の実を取るのも必要最低限にしていたので、森も自然もいつも豊かだった。豊かな森や緑の恵みに感謝して暮らしてきた祖先のように、わたしたちもこの森をいつまでも大事にしていきたいものある。
写真・浜田太